石器に使われた石
金属を知る前、人々は道具の材料として石を使っていました。どんな石でもよかったわけではなく、用途ごとに適した石が使われていました。とくに「切る」「けずる」といった用途には、刃物の刃のように鋭く割れて、じょうぶな石が選ばれていました。
よく知られているのが黒曜石で、北海道や中部高地がよく知られていますが、日本全国で200か所ほどの産地があります。【写真①②】
①北海道の黒曜石(北海道・白滝遺跡)
②中部高地の黒曜石(長野県・男女倉遺跡)
また近畿地方・瀬戸内海地方ではサヌカイトという石がよく使われています【写真③】。サヌカイトによく似た下呂石【写真④】が岐阜県を中心に使われ、縄文時代の中ごろ以降になると、東海地方全体に広がっていきます。
③サヌカイト(奈良県・二上山遺跡)
④下呂石(石器は長野県・柳又遺跡)
旧石器時代から縄文時代を通じて東海地方ではチャートという石が好んで使われています【写真⑤】。
⑤チャート(石器は長野県・柳又遺跡))
愛知県内に注目すると、尾張地方と西三河地方では、旧石器時代から縄文時代にはほとんどの石器がチャートで作られています【写真⑥⑦】。
⑥チャート(春日井市・上八田遺跡/個人蔵)
⑦チャート(犬山市・入鹿池遺跡群/個人蔵)
ところが、東三河地方の石器をみると、白くてやわらかそうな石がとても多く使われています【写真⑧⑨⑩】。
⑧白い石(豊川市・日吉遺跡/個人蔵)
⑨白い石(新城市・萩平遺跡/新城市教育委員会)
⑩白い石(豊川市・鑓水遺跡/個人蔵)
この白い石はもとから白かったわけではなく、風化して白くやわらかそうな外観になってしまったのです。新しく割れた部分の内側には、濃い色が見えます【写真⑪⑫】。
⑪白い石の割れ口(豊川市・鑓水遺跡/個人蔵)
⑫石材標本/白い石の断面(新城市・萩平遺跡)
これら白い石は、流紋岩、頁岩、溶結凝灰岩などいくつかの種類の石が風化したものです。もともとは硬く鋭く割れる石だったのです【写真⑬】。
⑬石材標本/溶結凝灰岩など
今回の「石器に使われた石」では、黒曜石やサヌカイトなど全国的に使われた石、チャートや白く風化する石のように地域的に使われた石、そしてそれらの石で作られた石器をご覧いただきます。