展示

常設展テーマ16 まつり

虫送り

 夏の農耕儀礼の一つに、ウンカやイナゴなどの稲を荒らす害虫を追い払う「虫送り」があります。かつては名古屋市内においても、今も周辺の地域では、「サネモリ」と呼ばれる人形を担いで人びとが行列をなして害虫の退散を願う行事が伝えられています。害虫駆除だけではなく、病をもたらす疫神退散の願いも一緒に込めておこなう地域もあり、「虫送り」は人びとの「禍」への思いを伝える貴重な民俗文化財となっています。

 「サネモリ」という名称については、平家の武将である斎藤別当実盛に由来するという伝承が知られています。実盛が乗っていた馬が稲の切り株に足を取られて落馬したところを討ち取られたため、実盛の怨霊が虫になって稲に祟りをなすようになったというものです。この伝承は西日本を中心に分布し、愛知県が東限だといわれています。

 写真の人形は、豊明市沓掛の虫送りで使われているサネモリの人形です。この虫送りは7月下旬におこなわれ、「オンカ送り」とも呼ばれています。子どもたちが日中に、竹の棒に差した馬にまたがったサネモリ(実盛)やクジャク(孔雀)の人形、「奉送雲霞大神」と書かれたハタ(幟)を持ち、太鼓を鳴らしながら、諏訪社を出発して集落内を巡ります。かつては松明をかかげ、夜におこなわれていたといいます。集落の北のはずれに着くと人形や幟を焼いて引き上げますが、子どもたちは振り返らずに諏訪社まで戻らなければならなりません。集落のはずれで人形や幟が焼き捨てられるのは、集落から害虫が追い払われたことを表しています。この虫送りは、昭和62年(1987)に豊明市の無形民俗文化財に指定されました。

馬に乗った武士の人形

虫送り人形