常設展フリールーム

小さな着物の世界

  • 平成26年3月26日(水)~4月20日(日)

写真の着物は、左の博物館だより(A4)と比べても、2倍ほどくらいしかない“小さな着物”です。これは一体なんのために作られたのでしょうか?

振袖雛形写真

小さな着物の正体

この“小さな着物”の正体は、裁縫を学ぶために作られた着物の雛形(ひながた)(模型)です。着物雛形は、和裁に使う鯨尺(くじらじゃく)をおよそ三分の一に縮小した「雛形尺」というものさしを使って作ります。着物の仕立てを練習するとき、この雛形尺で作ると、使う布の量が少なくすみます。雛形尺を鯨尺に持ち替えて同じように作ると、普通サイズの着物ができるというわけです。
このような練習法は、明治7年(1874)に千葉県出身の渡邊辰五郎氏によって考案されました。彼が創設した和洋裁縫伝習所(現在の東京家政大学)には、全国から多くの女性たちが集まりました。その教えを広めるため、愛知県にも学校が作られ、例えば、現在の椙山女学園の創始者椙山正弌(すぎやままさかず)氏は渡邊氏からその教育法を学び、名古屋裁縫女学校を創設して裁縫を教えました。

ここに注目!

着物雛形の一つ目の注目ポイントは、その種類の豊富さです。振袖や羽織、袴などの和服はもちろん、シャツや、ペチコートなどの洋服もいくつか見られます。さらには、裳(も)や狩衣(かりぎぬ)などの時代衣裳も見ることができます。
二つ目の注目ポイントは、その精巧な仕上がりです。小さな着物をじっくり見ると、ほんとうにていねいな縫い目で美しい仕上がりになっていることに気づきます。着物雛形が作られていた明治~昭和の時代は、女性たちが家の着物を仕立てるのが当たり前と思われていました。着物雛形からは、そんな時代の女性たちの裁縫の巧みさをうかがい知ることができます。

今では着物を着ることもめったになくなり、作る機会はさらに稀になっています。小さな着物=着物雛形は、愛らしさに加えて、着物を自分たちで仕立てていた女性の巧みな“わざ”が満ちあふれています。