展示

常設展テーマ16 まつり

花祭の祭具

 愛知県を代表する祭礼「花祭」(国指定重要無形民俗文化財)は北設楽郡東栄町・豊根村・設楽町に伝わる湯立神楽で、鬼の舞が広く知られています。大きく神事と舞を中心とする芸能からなり、一昼夜にわたっておこなわれます。神事で祭場を清め、神々を迎えて悪霊を除き、鬼をはじめとする数々の芸能が湯立をする竈(かま)の周囲で奉納されます。五穀豊穣・無病息災・村中繁栄などを祈願し、舞の奉納が終われば神事で神々を返し、祭場を元に戻して花祭は終了となります。
 花祭を催すには多くの人びとの協力のもと、面や衣装ばかりでなく、数多くの祭具が用意されます。祭具は神事に用いる幣束や祭場の飾り、舞手がもつ道具(採り物)など多岐にわたります。幣束や飾りは色紙や半紙を細かく切って仕上げられ、その造形は「切り草」と呼ばれています。

 写真の祭具は「翁の幣」といい、「翁」の舞に使われる採り物です。翁は右手で鈴を鳴らし、左手に翁の幣をもって祭場の中心である竈の周囲を一周します。翁の幣には竹の先に「ひいな」と呼ばれる切り草が飾られています。「ひいな」とは五色の色紙を重ねて手間をかけて作られる切り草で、山伏をかたどった人形(ひとがた)といわれています。竈の上を飾る「湯蓋」「びゃっけ」という大きな飾りの装飾にも使われている重要な切り草です。
 この翁の幣は東栄町布川地区で平成23年(2011)に使われたものです。布川地区の花祭は平成31年(2019)までおこなわれましたが、残念なことに翌年から休止となってしまいました。他の地区も過疎化や少子高齢化の厳しい実情に悩みながら、花祭を続けています。この度の花祭の祭具をご覧いただき、花祭をはじめとする無形民俗文化財の継承について考える契機になりましたら幸いです。

色紙を細かく切った飾りを付けた道具

翁の幣