源氏絵
令和元年8月28日(水曜)~10月20日(日曜)
王朝文学の傑作『源氏物語』は、物語の成立まもなくから絵画化され続けてきました。『源氏物語』を描いた作品は、王朝文学を題材とした絵画の中で圧倒的な数を誇り、それらは「源氏絵」と呼び慣わされています。 江戸時代は最も多くの、そして様々な絵師による源氏絵が描かれた時代です。絵巻、冊子、色紙、屏風、掛軸など様々な媒体に描かれた源氏絵は、それぞれの作品の画面形式を上手く活かしながら、物語の豊かな世界を表現しています。 本展では、館蔵品を中心とした源氏絵を、初公開の作品も交えながら展示します。以下、出品作品の一部をご紹介します。
『源氏物語』第1帖「桐壺(きりつぼ)」を28図に亘って描いた絵巻です。これほど長大に「桐壺」を描いた作例は現時点で確認されていません。 絵は、江戸時代のはじめに活躍した絵師・住吉如慶(すみよしじょけい 1599~1670)の画風によく似ていますが、如慶本人の筆とは認めがたく、周辺の住吉派の絵師による作品だと考えられます。今回の展示が初公開です。 ※全図および詞書の翻刻を『名古屋市博物館研究紀要』42号(2019年3月31日刊行)に掲載しています。
江戸時代前期(17世紀後半) 紙本淡彩 二巻 館蔵
本作は、54面の絵を有する源氏絵の画帖(がじょう)です。『源氏物語』の1帖から2場面を選択している箇所もあり、54帖すべての絵が揃っているわけではありません。 彩色を控え、墨の筆線を活かした白描(はくびょう)の技法で描かれています。あどけない表情の人物や、淡墨で描かれた樹木や草花の柔らかな表現が愛らしい作品です。 江戸時代前期に活躍した住吉如慶や息子具慶(ぐけい)の描いた源氏絵と図様が一致しており、住吉派の源氏絵を学んだ絵師による作品の可能性が考えられます。
江戸時代中期(17世紀末~18世紀初頭) 紙本墨画淡彩 一帖 館蔵
奈良絵本(ならえほん)は、室町時代後期から江戸時代前期にかけて制作された彩色の絵入り本です。御伽草子(おとぎぞうし)と称される短編物語や寺社の縁起、幸若舞(こうわかまい)や古浄瑠璃(こじょうるり)など、中世に成立した物語を題材としたものが多く、『源氏物語』を描いた作例は珍しいと言えます。 濃紺地の表紙には金泥で草花や蝶が緻密に書き込まれ、挿絵の上下に配された霞には金の切箔が散りばめられた豪華な作りで、大名や豪商などの娘の嫁入り道具として制作されたと考えられます。当館所蔵の「玉鬘(たまかずら)」、「柏木(かしわぎ)」と一具の、「絵合(えあわせ)」、「明石(あかし)」、「松風(まつかぜ)」、「朝顔(あさがお)」、「野分(のわき)」、「行幸(みゆき)」が確認されており、もとは54帖すべてが制作されていたようです。
玉鬘
柏木 江戸時代前期(寛文~延宝年間(1661~81)か) 紙本着色 各一冊 館蔵
『源氏物語』のうち、「桐壺(きりつぼ)」、「空蝉(うつせみ)」、「若紫(わかむらさき)」、「紅葉賀(もみじのが)」、「澪標(みおつくし)」、「薄雲(うすぐも)」、「初音(はつね)」、「胡蝶(こちょう)」、「蛍(ほたる)」、「若菜上(わかなのじょう)」、「橋姫(はしひめ)」、「椎本(しいがもと)」の12場面を描いた屏風です。右隻、左隻で大まかに物語の前半・後半に分かれています。 各場面を金雲などで明確には区切らず、一続きのように描く画面構成が特徴的です。土佐大掾元庸(とさだいじょうもとつね)は、詳細が全く不明な絵師ですが、本作以外に洛中洛外図屏風(らくちゅうらくがいずびょうぶ)の作例が確認されています。各場面の図様が、狩野探幽(かのうたんゆう 1607~1672)筆「源氏物語図屏風」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)とおおむね一致し、源氏絵の図様の展開を考える上でも興味深い作品です。 本作は昨年度寄贈を受けた作品で、今回が初公開です。
右隻
左隻 江戸時代中期(17世紀末~18世紀初頭) 紙本着色 六曲一双 館蔵
10月1日(火曜)に一部作品の場面替えをします。