展示

常設展テーマ10 近世尾張の文化

博物館と地域連携

令和4年8月24日(水曜)から10月23日(日曜)

 博物館というと、皆様は何を思い浮かべるでしょうか。絵画や工芸、古文書や埋蔵文化財、祭りや年中行事に登場する道具や、昔のくらしの道具などを展示しているところ…。資料を収集保管し、調査、研究成果を展示で紹介するところ…、といった感じでしょうか。
 しかし、本展示では、資料や博物館という場を活用して地域の人々と行った事業を紹介します。

お鍬(くわ)祭りイベントの開催

 平成19年(2007)9月30日、博物館において、博物館、瑞穂通商店街、大須商店街が連携した、お鍬祭り行列のイベントが開催されました。お鍬祭りは江戸時代から続く60年周期で流行する豊年(ほうねん)を祝う祭り。平成19年の祭り開催予定地域の多くで、前回、昭和22年(1947)の祭りの記録が残っておらず、開催が危ぶまれているという情報が館にもたらされたことから、このイベントは企画されたのです。
 博物館が所蔵する『御鍬祭真景図略(おくわまつりしんけいずりゃく)』という江戸時代の記録を参考に、造り物、仮装、踊りなどで構成される賑やか祭り行列を再現しました。祭りに参加した大須商店街は、江戸時代から見世物や芝居が興行された盛り場であり、180年前、文政10年(1827)のお鍬祭りを行った地域です。大須にとっては180年ぶりの祭り復活でもあった訳です。
 祭りイベントは大成功に終わり、祭り開催を予定していた愛知県西部の地域の人々も観覧に訪れてくれました。聞くところによると、この年、お鍬祭りが開催されたのは、百か所を超えたそうです。博物館の資料が文化資源となって地域と連携した事業に発展し、さらに広範囲な地域と結びついたお鍬祭りイベントについて紹介します。

前のクジラの造り物は江戸時代の資料をもとに作られた。後ろの巨大なタコは張りぼてで作られている。

大須商店街のお鍬祭りの造り物

大須商店街との連携

 お鍬祭りの経験をもとに、博物館は大須商店街と様々な歴史イベントを企画していきます。平成24年(2012)には、大須観音の名古屋城下移転400年を記念して、馬を寺社に奉納する祭礼習俗(しゅうぞく)、馬の頭(とう)を開催します。博物館資料の『絵本上雲雀(えほんあげひばり)』や『新卑姑射文庫(しんひごやぶんこ)』の馬の頭の様子を参考にして行列の内容を決めていきました。自由な演出ができる俄馬(にわかうま)形式を採用した大須馬の頭は、大須大道町人祭(おおすだいどうちょうにんまつり)の企画として行われたため、大道芸人たちも参加して、たくさんの観客を楽しませたのです。
 馬の頭の他にも、平成28年(2016)にはラクダ行列、翌29年(2017)には「ええじゃないか」150年イベントなど、博物館資料をもとに、かつて大須で行われた歴史的な出来事を紹介するイベントを実施しています。大事なのは、江戸時代の復元ではなく、江戸時代の様子を踏まえたうえで、現代の大須のイベントとして開催すること。大須商人の意地とアイデアを詰め込んだイベントには面白さが盛りだくさんなのです。
 この他にも平成24年(2012)から25年(2013)にかけて博物館で行われた「大須観音展」にあわせ、常設展の中を大須商店街がジャックしたというイベント「大須のにぎわい」も紹介します。老舗からサブカルまで、様々な文化で賑わう大須商店街が常設展に登場した、いつもと違う常設展の様子をご覧いただきます。
 本展示は、これまでの博物館活動とは少し異なる、博物館や資料が持つ文化資源としての新たな可能性や魅力について紹介し、考える試みなのです。

馬の頭(とう)終了後の俄(にわか)行列を描く。首の縄をつけられ、狐に引かれるのは、化かされた人々である。

絵本上雲雀(えほんあげひばり) 名古屋市博物館蔵