東アジア歴史遺産へのまなざし
名古屋市博物館では、東アジアの歴史遺産に関わる考古資料や調査記録を少量ながら所蔵しています。その多くは個人の方から寄贈をいただいたものが中心で、学者・研究者や考古学・歴史の愛好家の方々が収集してきたものが少なからず含まれています。
今回はとくに、ここ数年の間に新たにご寄贈いただいた、中国の文物・文化遺産に関係する重要な資料群を軸に、下記4本立ての内容で展示します。
考古学や東洋史の研究者の間では学史的な名著『長安史蹟の研究』で高名な中国史研究者・足立喜六氏が残した、1900年代初頭の中国西安一帯の歴史遺産に関する調査記録類。
『長安史蹟の研究』に収録された写真原版の一部であるガラス乾板、紙焼き写真、現地の石碑や石仏の拓本、研究論文の原稿類といった研究資料のほか、著書、叙勲表彰状など、足立喜六氏の人となり、業績・経験をうかがうことができる資料もあり、きわめて貴重です。
春秋・戦国時代から明清代・中華民国期にいたる、中国鏡の出現期から近代までの変遷史を追うことができる一大コレクション。漢式鏡を中心に108面にのぼる数は古鏡コレクションとして有数の規模で、それらの内容は、銅鏡の種類や文様のバラエティ、時代ごとの人々の思想や流行の風潮などを知ることができる非常に興味深いものです。職業的な研究者ではない市井の愛好家の手によって収集された資料であり、地道な学習姿勢と熱のこもった歴史愛好心をうかがうことができます。
中国の民間玩具には地方ごとに異なる特色があり、また各地の伝統文化と関わるような玩具も少なくありません。本コレクションは、そのなかでも広東省を中心として収集された、近代中国の民間玩具の数々です。南中国の明るくおおらかな気質を思わせる張り子のお面や、王朝の都らしさを感じさせる北京の花嫁行列人形、江蘇省の泥人形など、豊かな地域性のある造形をごらんいただきます。
中国商(殷)王朝の青銅器、高句麗好太王陵のレンガ、朝鮮半島の新羅・加耶の土器や装身具など、著名な東アジア史関係の遺物や国内では珍しい重要資料を公開します。そのほか、近代の民間人の史跡探訪旅行の足跡をよく表すような収集品もとりあげます。
近現代の名古屋に所縁の人々は、このように東アジアの歴史遺産に触れることで、東アジア各地の歴史や文化に対して熱い思いを馳せ、自分たちの外側にある広い世界に目を向けて、そこからもう一度自分の国や地域を振り返って見つめていたにちがいありません。その結果、現在では失われたり様相を変えてしまった史跡や、調査研究があまり進んでいない未解明の遺跡に関して貴重な情報を今に残してくれることになりました。昭和初期から現代までの名古屋に所縁の研究者などが遺した、東アジアの歴史遺産に関する調査記録や収集資料を公開します。人々が東アジアの歴史遺産に向けた関心や熱意にご注目ください。
館蔵東アジア資料の一部
三段式神仙鏡(松本コレクション)