シジミカゴ

　写真１は、「シジミカゴ（蜆籠）」、「シジミマンガ（蜆万牙・蜆万鍬）」などと呼ばれる。鉄枠に金網をとり付けた籠状の漁具である。籠の先端には、貝をかきとるための刃が付いており、その大きさは幅約48cm、長さ約2.5cmである。下之一色漁業資料には、様々な貝類をとる漁具も含まれており、トリ貝をとる漁具の刃は長さ20cm程度、ハマグリをとる漁具の刃は長さ10cm程度というように、貝の種類によって刃の長さが異なる。それらと比較すると、シジミのような浅い場所にすむ小さな貝をとるのに、シジミカゴは適していることが分かる。

　籠に付けられた竹製の柄は、長さが約2m30cmあり、籠に結び付けられた短い綱は、船とシジミカゴをつなぐためのものである。

　海底の貝をとる籠状の漁具は、大別すると海中に入って人が漁具を操作するものと船で引くものに分けられる。枠に袋網が付いた漁具（いわゆる桁網）の場合は、綱を伸ばして船から離れた位置で引くが、シジミカゴのような籠状の漁具の場合は、船から近い位置で引き、船上で籠から伸びた柄を持ち手加減する。

　シジミカゴは「水帆漁（みずほりょう）」という漁で使用された。水帆漁とは水中に帆を広げ、帆で水流を受けて船を動かしてシジミカゴを引き、水底のシジミをかきとる漁である。帆を広げるのは下げ潮の時であり、川の下流に向かって船が横向きに移動する。

　水帆漁が始まったのは昭和20年代であり、庄内川、新川などの河口部で行われた。動力船であれば木曽川、鍋田川まで移動して漁をした。写真２は水帆漁の様子を写した昭和30年ころの写真である。庄内川で帆を水中に広げて、船に乗る二人がシジミカゴの柄を持っている。

　下之一色は庄内川の下流に位置し、淡水と海水の混ざる伊勢湾奥部を中心に様々な漁が展開された。地先の海で行われた漁が多いが、河口部で行われた漁もある。ただ海でも川でも、潮の干満を利用するなど汽水域の環境に応じて漁が行われたことは変わらない。比較的新しい時期に始まった水帆漁でも同様であり、シジミカゴは下之一色で行われた漁業の特徴を紹介することのできる資料である。

（長谷川洋一）