コレクション

さんぞんらいごうしゅうぶつ
三尊来迎繍仏

雲に乗った三尊の仏を描いた掛軸

 繍仏(しゅうぶつ)とは仏画を刺繍で製作したもので、聖徳太子を追悼するために製作された天寿国繍帳(てんじゅこくしゅうちょう・中宮寺蔵)をはじめ、飛鳥~奈良時代には盛んに製作されたが、平安時代には一時廃れていた。鎌倉時代に中国からの宋元朝の仏教文化の請来や当麻曼荼羅信仰の流行を刺激としてまた製作されるようになった

 本像は阿弥陀如来と観音・勢至菩薩の三尊が、臨終の念仏行者を迎えに来る姿を表現している。三尊は立って雲に乗り、両足は踏み割り蓮華と呼ばれる二つに分かれた蓮台を踏んでいる。阿弥陀如来は指で輪を作り、右手を掲げ左手を垂らす来迎印を結び、眉間からは行者を迎える光明を放っている。観音菩薩は腰をかがめて、行者が乗るべき蓮台を差し出している。勢至菩薩は合掌し付き従っている。

 三尊が来迎する絵姿は、礼拝の対象とするばかりではなく、念仏行者が人生を終えようとするときに枕元に掲示し、臨終を迎える瞬間まで極楽往生を観想し続ける法具としても用いられた。通常は絵画で製作される図像だが、南北朝~室町時代にかけてこれを刺繍で製作した物が30点弱残されている。本像もその一つであるが、近畿地方での伝来例が多く、東海地方で知られるのは本像のみである。本像が伝来した弘浄寺(津島市)は永禄年間(1558-70)に建立された浄土宗系の寺院である。弘浄寺に施入された由来は不明だが、元禄17年(1704)に現在の表装に改めた際の墨書があり、このときには弘浄寺にあったことが分かる。現代まで永く寺宝として伝えられてきたが、平成29年度にご住職が本像の将来的な保存・活用を考慮されて当館に寄贈してくださったものである。本像は愛知県指定文化財に指定されており、当地方に300年以上伝来した事が明らかな中世繍仏を収蔵できたことは望外の喜びである。

 繍仏は仏像部分だけでなく、表装全体を刺繍で装飾する事が多い。本像も表具の中廻し・天地に相当する部分を蓮華などの刺繍で装飾しているが、外周部分は失われて江戸時代に通常の掛幅装となっている。この掛幅装も現状は軸芯が脱落して掛けることはできない。本紙部分も繍糸・生地とも粉粒化には到らないまでも劣化が著しい。

 現状では本格的な活用は難しいが、近い将来に「名古屋市教育基金 よみがえれ文化財」などを活用して修理を施し、あらためてご披露できる様に努力したい

南北朝時代 絹本刺繍 縦79.2cm 横34.3cm 愛知県指定文化財 弘浄寺(津島市)寄贈

※本資料は常設展示しておりません。あしからずご了承ください。