展示

常設展テーマ10

鹿の子絞り -技法から見た江戸時代の小袖-

  • 9月15日(火)~10月25日(日)

 白い四角の真ん中にちょこんと点のある形をしている鹿の子(かのこ)絞り。その独特の形は、着物を着る機会が減った今でも、雑貨や小物などでデザインされていますので、見たことがあるという人は多いと思います。今回の展示では、今もなお愛され続ける鹿の子絞りを、江戸時代の小袖からご紹介します。

鹿の子絞りとは?

 布を糸などでくくって、染めることを絞り染めといいます。糸をはずすと、くくったところは染まらないので形になって表れます。絞り方はたくさんあり、そのやり方によってさまざまな形がうまれるのが絞り染めの特徴です。鹿の子絞りも、そんな絞り染めの一つです。

 鹿の子絞りは、丸い点の下絵を中心に布を四つ折りにして、その角を糸で7~8回ほどくくることを繰り返して、布を染める技法です。すると、糸でくくったところは白く四角く、角の先端はかすかに染められて点となってでてきます。その形が、子鹿の背に表われる白いまだら模様に見えることから、その名があります。

江戸時代の小袖と鹿の子絞り

 江戸時代の小袖に鹿の子絞りをほどこしたものはよく見られます。写真1では、亀甲模様を紅、熨斗模様を紅と藍の鹿の子絞りで、そのまわりに橘を色とりどりの刺繍で表現しています。鹿の子絞り独特のつぶの集まりや絞った時にできる皺(しぼ)が揺らいで見えるため、小袖に絶妙のアクセントを添えてくれるのです。

 そして、鹿の子絞りを用いた究極のデザインが、小袖全体、袖も襟もすべて鹿の子絞りで埋めつくした「総鹿の子(そうかのこ)」です。写真2は、その総鹿の子の小袖です。遠目では浅葱と薄浅葱の染め模様のようにも見えますが、近づいてみると一つ一つ鹿の子の絞りつぶが整然と並んでいて、見る者を圧倒させます。鹿の子絞りは、京都の女性たちが一つ一つ手作業で絞ったといい(今でもそのように作られています)、時間と手間ひまがかかる、たいへん贅沢な小袖です。この小袖が流行すると、天和3年(1683)には総鹿の子を禁止する御触が出されるほどになりました。

 江戸時代を通して愛された鹿の子絞り。写真ではそのつぶが見えませんが、とても細かく丁寧に絞られておりますので、ぜひ展示室でご覧ください。

※松坂屋コレクション…松坂屋が着物のデザインのために昭和6年から蒐集していた小袖や裂などの染織品のコレクション。平成23年当館にその一部が寄贈されました。今回の展示では、このコレクションから展示します。

写真1 紅綸子地亀甲大熨斗橘模様小袖(松坂屋コレクション)※両袖と襟は後世の仕立直し

写真1 紅綸子地亀甲大熨斗橘模様小袖
(松坂屋コレクション)
※両袖と襟は後世の仕立直し

写真2 浅葱綸子地亀甲菊模様小袖(松坂屋コレクション)

写真2 浅葱綸子地亀甲菊模様小袖
(松坂屋コレクション)