コレクション

古代の焼き物 緑釉陶器と灰釉陶器~古代の尾張ブランド

 陶磁器類のことを「せともの」と言うように、瀬戸をはじめとする尾張は現代でも窯業が盛んな地域である。 その起源は、古代の名古屋市域にあり、現在の名古屋市昭和区・千種区一帯の丘陵地で、いち早く5世紀前半には須恵器(すえき)が生産され始めた 。そして古代から中世にかけて、名古屋市東部の丘陵地帯からみよし市、日進市、東郷町などを含むおよそ20km四方にわたって 1,000基をこえる数多くの窯がつくられた。
これらの窯跡を猿投山西南麓古窯跡群(さなげやませいなんろくこようせきぐん)、略して“猿投窯”(さなげよう)と呼んでいる。 猿投窯では、須恵器のほか、緑釉陶器、灰釉陶器などが生産され、畿内をはじめ各地に搬出された。

緑釉陶器(りょくゆうとうき)

 緑釉陶器は、無色の基礎釉である鉛に、銅化合物を加えることで緑色に発色する釉をかけた古代の陶器である。 日本では7世紀から11世紀初め頃につくられた。平安時代初期には京都府の洛北窯(らくほくよう)で生産されていたが、 9世紀に猿投窯でも生産され、さらに尾張北部の尾北窯(びほくよう)においても生産が確認されている。10世紀になると他にもいくつかの 生産地が確認されているが、それでも国内での生産地は限定されている。

皿や椀、とくに西満とへら書きされた椀

亀ヶ洞1号窯出土資料 平安時代 
鈴村秋一コレクション (分類番号115-44)

 尾張における緑釉陶器の生産を考える上で欠かせないのが、亀ケ洞1号窯出土資料である(写真1・2)。 この窯は、昭和30年(1955)に発見され、郷土史家らによって発掘・記録がなされた。出土物には、緑釉陶器と須恵器・灰釉陶器があり、 それぞれが焼かれていたことがわかる。なかでも、須恵器の椀には「西満」とヘラ書きされたものがあり注目される。緑釉陶器では、椀・皿、香炉など 多種多様な器種のほか、素地(緑釉を施す前の状態)やトチン(やきものを重ね焼する時に融着することを防ぐために間に挟む道具)、 緑釉が付着した坩堝(るつぼ)などが大量に出土している。猿投窯の中では緑釉の素地のみが出土する窯跡もあるが、この遺跡で緑釉の施釉を行なっていたことがわかるなど、 緑釉陶器の生産の実態を知ることができる重要な資料となっている。

窯で使われたたくさんの道具

亀ヶ洞1号窯出土資料 平安時代 
松岡浩コレクション (分類番号110-176)

 館蔵の緑釉陶器は少ない。その中で写真3の四足壺は、猿投窯でつくられたものではないが、ほぼ全形を残す貴重な資料である。 下膨れした胴部に3条の凹線を施し、四方に脚を取り付ける。胴部は器壁を薄くつくり、脚も端部まで細かく成形している。 緑釉は全体に薄く発色しており、状態は良好である。出土地は不明であるが、この種の壺が完形で出土する場合は、蔵骨器として使用された事例が多く、 この壺もそうした可能性があろう。

緑色のうわぐすりをぬった4つの足をもつ壺

写真3 四足壺 平安時代 口径9.0㎝、胴部径20.5㎝、高さ16.6㎝ (分類番号105-47)

灰釉陶器(かいゆうとうき)

 灰釉陶器は、9世紀前半に猿投窯(さなげよう)において創出された古代の施釉陶器(せゆうとうき)である。 「灰釉」自体は、植物灰を材料としたもので、最も基本的な釉薬として、古代の灰釉陶器以降、中世瀬戸窯や近世、 そして近現代の様々なやきものに連綿と使用されている。そのため、特に「灰釉陶器」といった場合は、9世紀前半から11世紀にかけて 尾張及び東海地方でつくられた、灰釉を施した一群のやきものを指す。灰釉陶器は、椀、皿、壺など多様な器種がつくられた。
館蔵の灰釉陶器の逸品が写真4の短頸壺である。張りのある胴部にごく短い頸が付き、胴部の器壁は薄く・均一に整えており、 全体的に均整のとれた形である。胴部下半は赤褐色の火色が発色し、肩から流れる濃緑色の灰釉との対比が美しい。出土地は不明であるが、 形態・胎土等から猿投窯で生産されたと考えられる。
 灰釉陶器は尾張及びその周辺で生産され日本各地に流通した。古代において、尾張はやきもの生産の中心の一つであったといって過言でない。

(瀬川貴文)

赤い胴に緑色のうわぐすりがながれる壺

写真4 短頸壺 平安時代 口径(復元)9.6㎝、胴部径23.4㎝、高さ21.0㎝ (分類番号105-64)

参考文献

尾野善裕 2013 「NN245号窯跡」『新修名古屋市史 資料編 考古2』
松岡浩・梶山勝(翻刻・補註) 2010 「緑釉陶器を生産した亀ケ洞1号窯の調査記録」『名古屋市博物館研究紀要』第33巻
名古屋市博物館 2013 『名古屋市博物館資料図版目録9 尾張のやきもの【古代・中世】』

*写真1の一部、写真4は常設展テーマ5「窯業」に通常は展示しております(他館貸出等のため展示されていない場合もあります)。
その他は、常設展示しておりません。あしからずご了承ください。